“世界唯一”リゾート滞在型「陽子線がん治療」最前線…治療の合間に温泉・レジャーも【Jの追跡】(2023年5月20日)

“世界唯一”リゾート滞在型「陽子線がん治療」最前線…治療の合間に温泉・レジャーも【Jの追跡】(2023年5月20日)

“世界唯一”リゾート滞在型「陽子線がん治療」最前線…治療の合間に温泉・レジャーも【Jの追跡】(2023年5月20日)

追跡取材班が向かったのは、鹿児島県指宿市。世界が注目する“ある巨大施設”があります。

それは“世界唯一”というリゾート滞在型がん治療施設。身近になりつつある、体に優しいがん治療の最前線を追跡しました。

■「外科手術」「抗がん剤」に次ぐ…“第三のがん治療”

鹿児島県指宿市にある「メディポリス国際陽子線治療センター」。2011年、最新の放射線治療、陽子線を使ったがん治療を開始。治療実績件数は、5500件を超えるといいます。

ここで、患者に対し陽子線を360度どこからでも照射することができるといいます。陽子線治療は「外科手術」「抗がん剤」に次ぐ、第三のがん治療である「放射線」の一つです。

X線治療の場合、体内を通過する性質があるため、周辺の正常な細胞にもダメージが。一方、「陽子線」は、想定した位置でビームが止まるため、ピンポイントで狙い撃ちでき、体への負担が軽くなるといいます。

放射線技師・和田清隆さん:「陽子線のビームは、止まる性質があるので、体の中でがんをやっつける」

実は、この治療室の裏側には、ある巨大な装置があります。

和田さん:「普通の治療室に見えるかもしれないが、この裏側に大きな機械が」

そこにあったのは…。

和田さん:「これは、回転ガントリー」

治療では、陽子線を直径7メートルのドーナツ状の加速器で、1秒間で地球をおよそ4周するスピードにまで加速させます。

その後、巨大な回転ガントリーが陽子線の進む方向を変えることで、患者のがん細胞に360度、どの角度からでも照射することができるのです。

この日、前立腺がんの治療を受ける74歳の男性。治療中は、体が動かないように固定器具を装着します。

治療は原則1日1回。照射時間はわずか2分ほど、あっという間にこの日の治療が終わりました。

さらに、この病院では「呼吸同期照射」という技術をいち早く取り入れています。

肺がんや肝臓がんなどの腫瘍は、息を吸ったり、吐いたりするたびに位置が変わります。その動きをレーザーで感知し、ピンポイントでビームを照射するのです。

実際に、陽子線で前立腺がんの治療を受けている77歳の男性は、次のように話します。

男性:「(他の治療法と比べて)体に負担がかからない。精神的にも(以前よりも)経済的にも負担が少ない」

あくまで指標ですが、前立腺がんの陽子線治療で、5年間、再発しない確率は、5つに分かれる病状リスクのうち、中リスク以下の場合95%以上だといいます。

■治療は約1時間…合間にレジャー・観光を楽しむ

治療にかかる時間は1時間ほど。患者がそれ以外の時間を過ごすのは、いわゆる入院病棟ではなく、隣接する患者専用ホテルです。

HOTELフリージア バレラみどりさん:「患者に『(病院から)歩いて50歩です』と話している」

そこはまるで、高級リゾートホテルのような雰囲気です。スタンダードタイプの部屋には、ベッドが2つと、くつろげるスペースもあります。

バレラさん:「(Q.1泊はどれくらい?)通常は、6800円(※日数が長くなるほど1泊当たりは安くなります)」

しかも、朝食付き。昼食や夕食を付けることも可能で、1食1000円。3食つけても8800円です。

治療の合間に、温泉も楽しめます。

その他、もっと優雅に過ごしたいという人には、個室に露天風呂もある一般客も泊まれる高級リゾート型ホテルも併設されています。

実は、客室係のバレラさんは…。

バレラさん:「私も、がんだったので車いすの暮らしをしていました。私の夫も、がんで亡くなった。寄り添う家族の気持ちも分かるし、病気になった本人の気持ちも分かる」

このホテルに宿泊中の78歳の男性。宮崎県から前立腺がんの治療に。

前立腺がんの場合、およそ1カ月の治療が必要なため、患者の多くが、このホテルに宿泊するそうです。

男性:「病院は暗いじゃないですか。だけど、ここでがんの治療をしてるなんて思ってない」

治療にかかる時間は、1日1時間ほどです。

男性:「あしたの朝まで、何もないから。せっかく休みだから、ハーフバッグを」

レジャーや観光を楽しみながらがんの治療をする、まさにリゾート滞在型。医師によると、約1か月、21回の照射をしたところ、この男性の「がん細胞は死滅」。しかし、「再発のリスクはゼロではないため、数年の経過観察が必要だ」といいます。

宿泊代は、およそ19万円。そして、気になる治療費は、高額療養費制度適用で3万円だといいます。

男性:「庶民の人が治療を受けさせてもらえるようになった」

これまで、およそ300万円という治療費がネックにもなっていた陽子線治療。実は、公的医療保険適用になる対象が、次第に拡大されています。

5年前から前立腺がんなどは対象でしたが、去年4月には大きな肝臓がん・膵臓(すいぞう)がん、手術後に再発した大腸がんなどが新たに保険適用になりました。

高額療養費制度を利用することで、年齢や年収により、この病院の場合1カ月の負担を、2万円から27万円に抑えることができるのです。

その他、保険適用外でも民間の医療保険で、先進医療特約を付けていれば、先進医認定の肺がんや肝がんなどの治療費が保障されます。(※保険料、補償内容は保険契約によって異なります)

■年間約5000人が治療…メリット・デメリットも

現在、陽子線を使った治療施設は全国に19カ所。その有効性について専門家は、次のように話します。

国立がん研究センター東病院 秋元哲夫放射線科長:「(陽子線治療が)導入されてから10年20年経つにつれて、有効性が分かりつつあって」

そして、大きなメリットとして…。

秋元放射線科長:「手術や抗がん剤治療は、高齢患者には十分にできないケースもある。特に75歳を超えた患者には、合併症などの(リスクがある)」

一方、「すべてのがんに対して有効ではない」といいます。

メディポリス国際陽子線治療センター・荻野庚尚センター長:「胃、小腸、大腸などの消化管のがんの場合、胃や小腸は壁が非常に薄いので、治すだけの陽子線を当てると、胃や腸も破れてしまう」

また、進行や転移が進んだ場合や…。

荻野センター長:「あと(腸や大腸など)不規則な動きをする臓器に対しては、追従できない」

陽子線治療の主なメリットは「体の負担が少ない」「治療の痛みがなく短時間」。一方デメリットは「すべてのがんに適応できない」「保険適用外だと高額に」なることなどです。

がん治療の選択肢の一つ、陽子線治療。現在、年間およそ5000人が治療を受けています。
[テレ朝news]

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